「信州そば」と「ジンギスカン」

   

院長の父親である大先生・浜野文夫が約30年にわたって全国各地の「味の旅」13巻のアーカイブ集です。

今回、ふるさと信州に行くことになった。
それは、孫のひとりが、「おじいさんが、あまり長生きできないと診断されたので、おじいさんの生まれ故郷をこの目で見たい」と、優しいこと言っていたので計画した。
春3月、ふるさと長野に行ってきた。同伴者は、娘と孫夫妻とその子・ひ孫の五人である。
先ず、娘と北陸新幹線に乗り、長野駅で下車。『ホテルメトロポリタン長野』に着く。
一方、孫一家は早朝、自家用車で出発、長野に向かい、『ホテルメトロポリ長野』のフロントで落ち合うことになっていた。
「信州に行ったら、美味しいそばを食べたい」、と言うので、『北野家本店』に行く。善光寺「仁王門」の裏通りにあり、善光寺詣での著名人が立ち寄る評判の店だという。
 かつて「信州そばは、何故まずい」と書いたこともあって、数多くのそば屋の食べ歩きをした。善光寺門前にある『大丸』は、創業から三百年、高校同期生が主人の店である。さらに、田舎料理の店『二本松』は、毎年同期生が集まり、最後に戸隠そばを味わう店である。その他多くのそば屋を訪ねた結果、長野市の中ではお勧めできると思ったのが『北野家本店』である。
南北に長く広がる信州では、そば文化は地域によって製法も食べ方も様々である。
もり、かけ、とうじ、ぞばがき、独特なのは、しぼり汁そばである。大根おろしのしぼり汁に味噌を加えただけのツユである。
つなぎとして、ヤマゴホウ、自然薯、ふのりなどがあって、それぞれ味も違えば、味付けも違う。なにしろ、そばは「麺」がうまくなければならない。 
一昨年の冬、薄暗いそば屋らしい佇まいの『北野家本店』に行き、ぽつんと「ひとり」で、親子煮(鶏肉と卵煮)を肴にビールを飲む。次に「もり」そばに手をつける。細く、硬い麺が喉を通りぬける。香り、のど越し、切れ、こういうそばが旨いと言うのだろう。「ひとり」静かに楽しんだ思い出がある店だ。 
今回は娘、孫、ひ孫の5人である。皆が思い思いに注文した。天ぷらそば、カモそば、十割そばなどだ。十割そばには塩が付いていた。そばに「塩」は感心できない。
そば時や 月の信濃の 善光寺 (一茶)
食後、善光寺境内を散策した。善光寺の御本尊は「一光三尊阿弥陀如来」で、わが国最古の仏像ともいわれ、善光寺開山1400年の間、絶対秘仏である。誰も見たことがないという。住職も見たことがないといわれる。戦後、進駐軍の立ち入り調査に臨んだ米国人は「ナッシング」の言葉を残したとされる。本当に御本尊あるのかどうか誰もみたことがないので分からない。
 夜は、長野市内で歯科医院を開業している甥夫婦と会食した。『信州蕎麦の草笛』という店で、馬刺し、牛肉ほうば焼きなどを食べながら、兄夫婦のこと、昔のこと、わが先祖のルーツなど話題は多岐にわたった。最後は、「ホテル」のバーで、カクテルなど飲んで、いろいろの事を話して、別れた。 
 翌日、わが生まれ故郷の信州新町に行き、『ろうかく荘』で、孫一家と、信州新町で歯科医院を開業している甥たちと合流した。
今回、旅の目的はジンギスカン料理である。
 信州新町は戦後、本州では珍しく綿羊の市場が開かれた羊に縁の深い土地である。
日本人が食べている「ジンギスカン料理」は、輸入のマトンが中心で、毛を刈り取った後の精肉のため、やや臭みがあった。今では食肉用のサホーク種の飼育が盛んに行われている。臭いも少なく、柔らかい肉に人気があり、店は大繁盛している。
 『ろうかく荘』の部屋からは眼下に清冽な犀川の流れが見渡される。子供の頃、この川で夏は毎日のように泳いでいたのを思い出しながら、先ず「サホーク」を注文。焼いて、タレをつけて食べる。柔らかく、臭みもなく、故郷の味を堪能しながら、皆が勝手にいろいろの話がはずむ。次に注文した「極上マトン」も牛肉や豚肉と違った味わいである。皆の満足した様子が窺えた。
 ジンギスカン料理には、肉をあらかじめタレに漬け込んだものが一般的だが、この店では、焼いてタレにつけて食べる。
 この店を後にして、孫が見たかったわが生まれた家を訪ねた。今は甥の診療所が建っていて、八十年前の面影はない。ここにもう二度と來ることはないだろうと思った。
 帰りは「道の駅」に寄って、再びそばを食べることになった。「道の駅」のそばだが、馬鹿にしたものではない、この店では、石臼、自家製粉の手打ちそばが味わえるというので長野市からも訪れる。二八そばは歯ごたえがあり、セルフサービスで価格も手ごろで評判がいい。ジンギスカン料理を食べた後なのに孫一家は食欲旺盛である。
 このように久しぶりにふるさと長野に行き、甥たちに会うことができたし、孫の希望に応えることもでき、思い残すことはなかった。できればもう一度、生まれ故郷のふるさと長野に帰りたいと思った。
 ふるさと長野は、苦悩する時、悲しい時、そして楽しい時も嬉しい時も、我が土壌であり、そこに戻るたびに癒され、蘇生する場所なのである。    (令和七年三月)

図中のイラストは大先生本人の描写です



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