子供の自撮りと身体醜形障害

   

院長の病理学の先輩でもあり、歯科心身学における第一人者の安彦先生が当院に書き下ろしてくれた、お口と心の悩みの解説の特集です。

美容大国・韓国

韓国のビールの国際審査会にジャッジとして参加し、その後、羽田に一泊してからベトナム・ホーチミンに渡り、現地の歯科医院の見学やホーチミン医科薬科大学での講演などを行い、先ほど札幌に戻ってまいりました。
韓国での審査会は、世界中から選ばれた約40名の審査員によって、2日間で450銘柄のビールを評価する大規模なものでした。
私は審査員特典として3銘柄まで無料でエントリーできる制度を活かし、自身が少額ながら出資している札幌市内のクラフトビール醸造所から2銘柄を持参し出品しました。
残念ながら受賞には至らず、非常に悔しい思いをしました。
韓国といえば「美容大国」という印象をお持ちの方も多いと思います。実際、化粧品チェーン店が街中にあふれ、美容形成外科の広告も非常に目立ちます。

身体醜形障害とは・・

そんな韓国は、残念ながら現在も世界で最も自殺率の高い国という不名誉な地位にあります。
10年ほど前は、日本と韓国がその上位を争っていた時期もありましたが、日本政府の自殺対策の効果もあり、日本の自殺率は現在では世界で20位前後にまで改善されていました。
ところが、最近のデータ(2022年)を見ると、韓国は依然として第1位でありながら、日本が再び第4位に上昇しています。
これは、従来ターゲットにされていた働き盛りの世代の自殺は減少傾向にあるものの、若年層の自殺が増加していることが背景にあると考えられています。
韓国の高い自殺率には国民性や社会構造も関係していると思いますが、過度な「外見至上主義」や「美容整形文化」も無関係ではないように感じています。

以前のニューズレターでも紹介しましたが、美容整形を繰り返す一部の人々は「身体醜形障害(Body Dysmorphic Disorder)」という精神疾患に罹患していることがあります。
これは、実際には目立たない身体的特徴を過剰に「醜い」と感じてしまい、そのことに強いこだわりをもってしまう障害です。
美容整形を受ける人のおよそ1割以上がこの傾向を有すると言われています。
日本では、2022年の調査によると大学生のうち9.6%が整形手術を経験しているのに対し、韓国では44.8%という非常に高い割合が報告されており、美容整形がいかに一般的なものであるかがわかります。
身体醜形障害の方にはうつ病などを併発し、自殺に至るケースも少なくありません。
こうした背景や社会環境が、同障害の患者数の増加に拍車をかけているのではないかと懸念しています。
ホーチミン訪問中には、日本風の内装のカフェで、若い女性が2人で延々とポーズを変えて自撮りを繰り返している様子を目にしました。
そこで今回は、「自撮り」と「美容整形への関心」に関する興味深い論文を紹介いたします。

 

「自撮り」と「美容整形への関心」の論文紹介

この研究は、ソーシャルメディア上での自撮り行動が10代の女子の美容整形への関心にどのように影響するかを検討したものです。
特に、「他人の自撮りを見る(閲覧)」行動と、「自分の自撮りを投稿する(投稿)」行動の影響の違いに着目し、それらが「外見比較」や「身体的不満足」を通してどのように作用するかが分析されました[1]。
中国の15~19歳の女子高校生762名を対象に行われた調査では、自撮りの「閲覧」が、美容整形への関心と強く関連していることが示されました。
とくに「外見比較→身体的不満足→整形への関心」という間接的な連鎖的経路が最も強く作用していました。

一方、「投稿」行動については、美容整形との関連は有意ではありませんでした。
投稿は自己肯定感を一時的に高める働きがある一方で、閲覧は理想的な他人の容姿との比較によって、自己否定感を増幅させる要因となるのです。
この研究からは、SNS上の視覚情報が思春期女子の自己像に与える影響の大きさが読み取れます。保護者や教育関係者は、SNS使用時のリスクを理解したうえで、多様な美の価値観を伝え、前向きな身体イメージの育成を支援することが求められます。
また、「外見比較」への過度な意識に対しては、「身体への思いやり」を育む教育が有効であると示唆されています。
本研究は、10代女子のSNS利用と美容整形意識の関連性を明らかにした、非常に意義深い内容となっています。

「何が問題になるか・どこからがハラスメントか」―結局は「関係性」?

さて、先月には、私の大学院を卒業して現在アメリカ・バージニア州でポスドクとして活躍しているネパールからの元学生を訪ねました。
彼とは何枚も自撮りを撮ったのですが、撮影した私の顔写真を拡大して「これは目が開いているの?閉じてるの?」と茶化してきたので、2人で大笑いしたものです。
これがもしプロスポーツ選手相手だったら重大な人種差別と受け取られ、大問題になっていたかもしれません。
知らない若い女性に対してであれば、ハラスメントとして問題になる可能性もあるでしょう。
当たり前のことですが、「何が問題になるか」「どこからがハラスメントか」は、その人との関係性によるのです。

 

[1] Li Y, Chen H, Zou Y, Guo Y, Gao L, Xu X. Online selfie behavior and consideration of cosmetic surgery in teenage girls: The mediating roles of appearance comparisons and body dissatisfaction. PLoS One. 2025 Feb 6;20(2):e0318245. doi:



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