第83回 ビタミンDとオメガ3の摂取と運動は身体全体の老化を抑制する?!
院長の病理学の先輩でもあり、歯科心身学における第一人者の安彦先生が当院に書き下ろしてくれた、お口と心の悩みの解説の特集です。

定年が近づいてくると、見た目にも髪が細くなり頭頂部が少し寂しくなってきたり、シミが増えたり……。かつてはフルマラソンを完走していたのに、久しぶりに10km走っただけで腰痛がひどくなってしまったり、若い頃には平日に午前2〜3時まで飲んで翌朝も普通に出勤していたのに、今では午前0時を過ぎると翌日はまったく使い物にならない、というのが現実です。
学生や若い社会人によく言っていることがあります。それは「若いうちにLCC(格安航空会社)を駆使してどんどん海外に出かけなさい」ということです。しかし今の私がLCCのエコノミークラスを乗り継いでヨーロッパやアメリカに行ったら、数日は間違いなく使い物にならなくなってしまいます。本当に、歳は取りたくないものですね。……とは言っても、こればかりは誰にも抗えない現実です。
「歳を取る」には2つの意味があります。ひとつは「暦年齢」、つまりカレンダー上の年齢。これは時間が過ぎる以上、どうにもなりません。もうひとつは「老化」、つまり身体機能や見た目などの衰えです。こちらは個人差が大きく、工夫によってある程度遅らせることができることがわかってきました。
例えば、不摂生な生活によって生活習慣病を発症すると、通常よりも老化の進行が早まることが知られており、これは「病的老化」とも呼ばれます。しかし「老化が進んでいるかどうか」は見た目だけでは判断がつかないものです。そこで登場するのが「エピジェネティック・クロック(epigenetic clock)」という概念です。
エピジェネティック・クロックとは、DNAの周囲にある化学修飾(特にDNAメチル化)の状態を計測することで、生物学的な老化の進行度を推定する技術で、2013年にアメリカのスティーブ・ホーバス教授によって初めて報告されました。現在では「PhenoAge」「GrimAge2」「DunedinPACE」「Horvathクロック」など、いくつかの指標が開発されています。この技術は法医学の分野でご遺体の年齢推定にも使われることがあるようです。
さて、世の中には「アンチエイジング」をうたったサプリメントが数多く販売されていますが、科学的な根拠が乏しいものが多いのが実情です。現時点でアンチエイジング効果に対して最も科学的な信頼性が高いとされているのは、実は「ダイエット(カロリー制限)」だけです。

そんな中、最近注目を集めているのが「青魚に含まれるオメガ3脂肪酸」や「ビタミンD」がエピジェネティック・クロックの進みを遅らせるという報告です。これはつまり「生物学的な老化の進行を抑える」効果があるということで、まさに本物のアンチエイジングにつながる、非常にインパクトのある研究成果です。今回はこの論文を紹介します[1]。
この研究は「DO-HEALTH試験(Vitamin D3–Omega3–Home Exercise–Healthy Aging and Longevity Trial)」と呼ばれ、ヨーロッパ5カ国(スイス、フランス、ドイツ、ポルトガル、オーストリア)に住む健康な70歳以上の高齢者2,157人を対象に行われました。このうち、DNA検査に同意した777人のデータが用いられました。
参加者は、ビタミンDサプリメント(1日2,000 IU)、オメガ3サプリメント(1日1g)、自宅で行う軽い運動(週3回・各30分)、これらの組み合わせ、プラセボ(偽薬)に分類されました。開始時と3年後に血液を採取してDNAメチル化を分析し、エピジェネティック・クロックの指標で老化の進み具合を評価しました。
その結果、オメガ3のみでも老化の進行を緩やかにする効果があることが、PhenoAge、GrimAge2、DunedinPACEの3つの指標で示されました。具体的には、3年間で生物学的年齢が約3か月分若返るという結果でした。さらに、オメガ3にビタミンDと運動を組み合わせたグループが最も効果的で、老化促進に関与する炎症性タンパク質(PAI-1、TIMP-1、レプチンなど)の値にも改善がみられました。Natureの姉妹誌「Nature Aging」に掲載されるのも納得の成果です。
ビタミンDについては、以前にもお話ししたとおり、日本人の9割以上が不足しているとされます。欠乏レベルになると骨や歯の形成に重大な影響が出ますが、軽度の不足でも免疫異常や発がん、動脈硬化のリスクが増加すると言われています。ビタミンDは日光を浴びることで皮膚で合成されますが、産業革命以降、屋内中心の生活となった人類は十分なビタミンDを合成できていないともいわれています。
私自身もビタミンDをサプリメントで1日4,000IU摂取しています。この量はサプリによる上限とされており、脂溶性ビタミンであるため、過剰摂取による高カルシウム血症などの有害事象に注意が必要です。
今回のエピジェネティック・クロックがターゲットとする「DNAメチル化」ですが、これはDNAの特定領域(CpGアイランドと呼ばれます)の化学的変化を示すものです。実はこの進行したメチル化を元に戻す「脱メチル化剤」も存在し、日本国内では「骨髄異形成症候群」の治療薬としてすでに承認されています。理論的には、この薬によってエピジェネティック・クロックを若返らせる、すなわち老化そのものを巻き戻す可能性もあるというわけです。
参考文献
Bischoff-Ferrari HA, Gängler S, Wieczorek M, Belsky DW, Ryan J, Kressig RW, Stähelin HB, Theiler R, Dawson-Hughes B, Rizzoli R, Vellas B, Rouch L, Guyonnet S, Egli A, Orav EJ, Willett W, Horvath S. Individual and additive effects of vitamin D, omega-3 and exercise on DNA methylation clocks of biological aging in older adults from the DO-HEALTH trial. Nat Aging. 2025 Mar;5(3):376-385.
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